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~第二部 赤の神と少年~幼馴染はベッドの上

Aвтор: 倉橋
last update Последнее обновление: 2025-07-27 13:29:29

今日、やっぱり学校行けない。だけど早めに家に来てくれる?  春奈>

 月曜の朝。

 春奈ちゃんからのline。

 二階建ての白塗りの家には「三神」と書かれた表札。

 ドアチャイムを押すと、春奈ちゃんのお母さんが出てきた。 

 「ごめんね。悠ちゃん。ずいぶん熱下がったけど、もう一日様子見る。入って!」

  お母さんのすまなそうな顔。 

 「おじゃまします」

 挨拶して家に上がった。

 「市の広報に載ってたね。

 <病院や施設でハーモニカ演奏会!

 当麻高校一年特進クラス・上杉悠馬《うえすぎゆうま》君>

 素晴らしいわ」

 僕、恥ずかしく下向いた。

 「病院に入院してる子に勉強のお手伝いする学習ボランティアで、この前はラジオに出てたし、春奈って本当にいいお友だち持った! お母さんも自慢しちゃうから……」

 お母さんがはしゃぐ度、僕、恥ずかしさで顔が熱くなる。

 「三神さんのお父さんが僕のこと宣伝してくれたからです。僕なんて……」

 「いくら都議会議員が言ったからって、簡単に市の広報とかマスコミが動くわけないでしょう。もっと胸

張って! 悠馬君って立派なことしてるんだから」

 お母さんに肩叩かれ、春奈ちゃんの部屋に入る。

 春奈ちゃんが、ベッドから起き上った。

 長い髪にキラキラした優しい目。ふんわり盛り上がった胸を見る度、甘酸っぱい気分。

 クラスの人気ナンバー1。

 だけど今朝は制服の代わりに赤いパジャマ。

 「おはよう。大丈夫?」

 返事の代わりに笑顔が返ってきた。僕はベッドに近づく。 

 「悠ちゃんの手を握りたいけど風邪移したらいけないよね」

 春奈ちゃんが優しく言ってくれる。

 僕、そっと春奈ちゃんの手に触れた。 

 「今日は学校休みなさい」

 僕のことを、しっかり見つめてくる。

 「一緒に遊びに行って風邪引いたことにしよう」

 いつもならそうする。でも今日はやっぱり……。

 「鈴木のグループ、停学になったことでわたしや悠ちゃんのこと恨んでる。わたし平気。だけど、悠ちゃ

んだけならきっとひどいことされる。鈴木の父親、PTAの会長だし、学校にたくさん寄付をしてるから、

いくら先生に言いつけたって平気!」

 僕は下向いた。

 鈴木貴也。

 父親は大手百貨店、月歩チェーンの会長。イケメンだけど僕のこと、取り巻きの宇野や松下なんか使っ

ていやがらせをしてくる。

 「体育の時間。サッカーの練習試合で、宇野や松下がわざと悠君に思いっきりぶつかってきた。わざと

ボールを悠君にぶっつけてた。あんなに先生に抗議したのに、ちょっと注意されただけ。購買の件はさす

がに通学停止になったけど……」

 四時間目の体育の授業の後のこと。体育は基本的に男女別。

 春奈ちゃんにぜったい言うなと脅かされて、僕のお金でパン買いに行かされた。

 途中で偶然、春奈ちゃんに出会った。

 春奈ちゃんが先生に言いつけて、鈴木たちは三日間の「登校停止処分」を受けた。

 僕は、春奈ちゃんに促され、ハッキリ自分のお金でパンを買いに行かされたって説明した。

 鈴木たちったら、後で払うつもりだったって弁解。

 結局、なんで自分で買いに行かなかったってことになり停学の次に重い処分になった。

 けれども鈴木たちは、今日の月曜から登校。

「春奈ちゃん。今度の土曜、玉山病院でハーモニカの演奏会あるでしょう」

 春奈ちゃんの部屋の壁に小さなチラシ。

 <ハーモニカミニコンサート 玉山病院一階受付前広場

 演奏者 ハーモニカ準指導員 上杉悠馬君 当麻高校一年

 みんなの知っているアニメやアイドルの歌を演奏します!>

 僕は、小学生の頃から、市の「ハーモニカ教室」に通っている。

 中学のときに「ハーモニカ準指導員」の資格を頂いた。

 「ボランティア希望者」に登録して、一ヶ月に一回くらい、病院を中心にハーモニカの演奏会に行ってい

る。ハーモニカって演奏する曲によって使うハーモニカの種類も違ってくる。多い人は二十種類くらいの

ハーモニカを持っている。僕は五種類。

 僕に限っていえば、「C」って呼ばれるハーモニカ使って、たいてい小中学生の児童のため、アニメやア

イドルのヒット曲を演奏してた。

「いつも使ってるCのハーモニカ。かすれる音が出て自分で手入れしても直らない。今日、先生が見てくれるっていうから、帰りに楽器店に寄るって約束したの」 

 よく使うハーモニカって、だんだん唾液がたまったりして音が悪くなる。普通、自分で手入れするんだけど、今度ばかりはふたつともダメだった。

「でもわたしいないんだよ。鈴木たちにひどいことされたら……」

「今度行く病院は、これで三回目。病気でもうすぐ、完全に耳が聞こえなくなる子がいるんだ。小夜ちゃ

んって小学生の女の子。最初に目が見えなくなった。そして今度は耳が……。その子ね。 

 『耳が聞こえるうちに思いっきり、『プリキュア』の曲、聞きたい。大きな声で歌いたい』

って言うの。だからどうしてもいい演奏聞かせてあげたいの。ごめんね。春奈ちゃん。でも先生にこちら

から頼んでおいて、失礼なことできないもん」

 春奈ちゃんが僕の肩に手を乗せた。

 「いいや。悠ちゃんに移ったっていいから」

 春奈ちゃんの目からポロリと涙がこぼれた。

 僕もなんだか悲しいような嬉しいような変な気持ちになっちゃって、同じように涙こぼした。

 「悠ちゃんは優しくていい子だよ。自分からハーモニカの演奏、勉強を教えるボランティアしている。

ハンディのある人たちのための署名や募金活動もしてる。クラスのみんなにも親切だし、私の自慢の幼馴

染だよ。だけどね。優しいだけじゃ……優しいだけじゃね」

 そう言って、そっと僕を抱きしめてくれた。

「いいんだ。わたしが守るんだから……。だから今日一日、なんとか、がんばって。変なことされたら、わ

たし、明日先生に言ってなんとかしてもらうから」

「ごめんなさい。春奈ちゃん」

 自分の声が涙声だって分かった。だけどどうしようもなかったもの。

「それからね」 

 春奈ちゃんが僕の額を軽く叩いた。

「また春奈ちゃんって。

 悠ちゃんはね。三月三十日生まれの早生まれ。わたし四月一日生まれだから、『お姉ちゃん』って呼ぶ

って約束したでしょ」

 僕って、涙がますますあふれてきた。

 春奈ちゃんの気持がよく分かったから……。

 「春奈姉さん」

 春奈ちゃんが僕の頬を優しくなでてくれた。

 「小さいときからずっと一緒だった。これからだってずっとね」

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  • カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?   ~第十部②~ マハー・カミラさんの謝罪

     目が覚めたらベッドの上。 だけどまだ縛られたまま。 マハー・カミラさんが僕の横に膝をついて座っている。頭や頬を何度もなでてくれている。「ユウちゃん!」 エエエーッ……。 マハー・カミラさんに、そう呼ばれてしまった。 僕の心は世界で一番幸せだった。 僕はプイッと横を向いた。「頼む。怒らないでくれ」  困った声。困った顔。「縛ったまま、ほどいてくれません」「だってユウちゃん。わたしから逃げようとするだろう」「マハー・カミラさんのことキライです。早く僕の命奪ってください」 マハー・カミラさんが頬ずりしてきた。 僕、少し心が落ち着いた。 けれどもやっぱり涙が出てきた。「ずっとひどいことされました」「すまぬ。最初から助けるつもりだったのだが、伯父上にユウちゃんを痛めつけている様子をだな。映像を送って信じさせる必要があったのだ。ユウちゃんをコンサートに呼んだことなんか、とっくに知られてた。一族の誰かが密告したんだ」「僕、怖かった」「ユウちゃん、ごめん。みんなあの蛇たちが悪いんだ」 マハー・カミラさんの声って涙声。 (嘘ッ。まさか) マハー・カミラさんの顔を見る。 「側近の夢、あきらめたくなかった。だけどもういいんだ。マハー・カーラの側近にならなくてもいい」 衝撃の告白だった。「そこまで言ったぞ。ユウちゃん、信じてくれ。アイスクリームだって好きなだけ食べさせてあげる。ディナーはなにがいい?」 マハー・カミラさんったら声まで優しくなっている。「洋食、和食、中華食。エーーイ、ローストビーフにトロにツバメの巣のスープでどうだ。こんなにわたし、優しいんだぞ」  マハー・カミラさんがひたすら弁解「だって僕の前で残酷なことばかりしました。マハー・カミラさんのこと大キライです!」  僕、わざと背を向けてやった。 だけど本当はマハー・カミラさんの顔を見ていたかった。「ま、待て。あれはだな。伯父上にかっこいいとこ見せるための演出なんだ。あのシーン、映像で送ったんだ」  なに言ってるんだろう。 僕、だんだん悲しくなってくる。 マハー・カミラさんのあんな残酷な姿みたくなんてなかった。 マハー・カミラさんが残酷だってことは分かってます。 だけどやっぱり僕にとっては、一緒にステージに上がるマハー・カミラさんのイメージでいて欲しか

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